シアトルのウッドランド・パーク動物園は、1899年に設立された由緒ある動物園で、約300種、1000頭もの動物たちが飼育されています。今回の楽しみの一つは、その展示方法を見ることでした。というのは、若生謙二(*1)先生の著書『動物園革命』でこの動物園のことを知って以来、ぜひ行ってみたい!と思っていたからです。
(*1)よこはま動物園ズーラシアの「チンパンジーの森」をはじめ、動物を生息地との関係で展示する生態的展示に取り組む日本の動物園研究の第一人者。
ホテルからバスを乗り継いで降りた動物園前のバス停。屋根や壁に、遊び心が満載です!
入口にはこんなボックスが・・。なんだと思いますか?
これは実はドネーションボックス(基金箱)。入園券を買うと、'VOTE(投票)'と書かれたコインがもらえます。
ボックスには絶滅に瀕している動物6種類の写真があり、自分の好きな動物のところにコインを入れると、入園料の中から25セントがその動物の保護のために寄付されるという仕組み。コインがくるくると落ちていくさまもユニークで、子どもも大人も楽しそうに'VOTE'していました。
単に動物を見に来る、見せる、という関係ではなく、なんのための動物園なのか?来園者に何を伝えたいのか?が、入園するときから自然と感じられる、というこの動物園のスタンスが表れていることを感じます。
そしていよいよ、動物園の中へ!
まず足を踏み入れた熱帯林エリアでは、どこまでが動物のエリアで、どこまでが人の歩行空間なのかの区別が、途中でわからなくなってしまうほど。例えば、この環境に生息するレムールと呼ばれるサルは、鬱蒼とした森の中を動き回る様子を見られるようになっています。(赤い丸がついているのが、レムール)
これだけ植物があると、動物がすっかり隠れてしまいそうになるのですが、そうはならない、ということは、相当に考え抜かれたデザインになっているのでしょう。動物が逃げないよう、深い溝や柵はあるのですが、効果的な高低差により、ほとんど視野に入らないのです。ですから、人側から見ると、動物がこちらにやってきそうな臨場感!特にグリズリー(クマ)などは、まっすぐ向かってこられると、野生の環境で出会ったときのように、胸がドキドキしてしまいました。
またサバンナのキリンやシマウマ、ツンドラのオオカミやエルク、など、もともと同じ場所に住む動物を同じエリアで飼育・展示することで(草食と肉食が混じるエリアは、見えないところに柵がある)、まるでその場に行ったような気持ちになれるのです。
ウッドランド・パーク動物園は、本来その動物がいた場所にできるだけ近い環境で飼育・展示している、と聞いてはいたのですが、実際に体験すると、想像以上に高度な設計がなされていることに、ほんとうに驚きました。動物を見る、のではなく、動物が暮らしている場に人間がお邪魔している、という感覚なのです。
そんな環境で暮らす動物たちは、ゆったりと生活しているように見えました。そして、物珍しそうに近くにやってきて、愛嬌ある姿をぞんぶんに見せてくれるのでした。
さらに、すべてのエリアには、動物と環境、動物と人間との関係が、掲示サインだけではなく、リアルに体感できる仕組みが満載!
ペンギンエリアでは、のびのび泳いだり日向ぼっこしている展示水槽の横で、ペンギンのフンを採取し肥料として活用する方法を、実際に触って学べるように展示されています。
子どもたちの遊び場も、この動物園ならでは。ビーバーの説明板の後ろに巣の遊具があるなど、動物の気持ちになりきって遊べるようになっています。
また園内のいたるところでは、ボランティアによるプログラムが行われており、足を止めて盛んに質問する人たちの姿がたくさん見られました。
その中には、休み中にボランティアに来ていると思われる高校生の姿も。
ちょっと緊張しながらも、来園者の質問にしっかりと答えているのが印象的でした。
また、各入口には、寄付をしてくれた団体や個人の名前が、園内の雰囲気を壊さないように、様々な形で掲示されていました。シアトルにはビル・ゲイツ氏の大邸宅がありますが、マイクロソフトもたくさんの寄付をしているようです。
そのほか、バード・ハウスやバグ・ワールド(虫の館)、カタツムリ・ラボなど、まだまだ語りつくせないこの動物園。シアトルを訪れた際には、ぜひ訪れてみてください。一見は百聞に如かず。動物園に対する考え方が、大きく変わること、うけあいです!