ソウミル川のデイライトを最初に提案したのは、2000年に設立されたNPO、グラウンドワーク・ヨンカー(当時の団体名。現在はグラウンドワーク・ハドソン谷:Groundwork Hudson Valley http://www.groundworkhv.org )です。
この取り組みにはヨンカー市の協力が欠かせませんが、膨大な費用がかかることもあり、市では夢物語としか考えていなかったようです。なぜならヨンカー市には、目立った収入源もなく、ただでさえ公共事業費が不足していたからです。しかし、グラウンドワーク・ヨンカーは、このデイライト事業が、公園も緑も少なく活気のないヨンカー市をよみがえらせる契機になると考え、粘り強く市との交渉を続けてきました。
2001年に、ニューヨーク州環境局から200万円の補助金を得ることができ、このプロジェクトのコーディネーターを雇用することが可能となりました。グラウンドワークでは「ソウミルリバー・コーリション(The Saw Mill River Coalition http://www.sawmillrivercoalition.org )」と名付けたNPOを発足し、アクションプランを作り始めます。
彼女は、このソウミルリバー・コーリションのミトロフさん。グラウンドワークの理事でもあり、このプロジェクトを推進してきた中心人物です。
ソウミルリバー・コーリションでは、川を取り巻く社会的な課題にひとつひとつ焦点を当てました。経済効果を生み出さない土地利用の状況、環境悪化に対して処理しきれない行政の事情、住民のニーズや関心はどこにあるのか、そして連邦政府からの協働のチャンスなどです。
最初のプロジェクトが成功し、その後10年間、ニューヨーク州から毎年補助金が降りることになりました。さらにほかの団体からも助成金を得ることができ、基本設計や、住民とのワークショップ、ウォーキングツアーを開催しながら、周囲の理解と賛同を得ていったのです。
そのころ、大きな転換がありました。ヨンカー市に多額な開発資金を投入しようと検討していたディベロッパーが、このデイライトは土地の価値を上げる事業だと後押したことで、ヨンカー市がデイライトを推進する姿勢に変わったのです。さらにアメリカ都市計画協会(American Planning Association )が、デイライト事業に賞を授与することとなり、授賞式にはグラウンドワークとヨンカー市が関係団体とともに出席しました。
このような動きの中で、ニューヨーク州はさらに30億円もの補助金をデイライト・プロジェクトに提供することに決め、一気にプロジェクトが進み始めました。
具体的な設計については、プロジェクト・フォー・パブリックスペース(Project for Public spaces:6/26ブログ参照)によるプレイスメイキング(公共空間を市民参加で計画する手法)を導入し、ワークショップ形式で進められました。住民・行政はもちろん、隣接する図書館や郵便局、州の交通局、教育委員会などの公共機関、芸術家や歴史研究家、地域の企業など、さまざまなステークホルダー(関係者)が参加しました。
このデイライトでもうひとつ重要なことは、この事業を通して、生きものの生息地を確保しようという取組みです。州の環境局のほか、国立公園局(National park Service)とのパートナーシップを得て、アメリカウナギ(The American Eel)をはじめとした水生動物 の保護を行っています。
設計担当の会社(PS&S)の方も同行して、説明してくれました。
魚道を整備し、水生生物が海と川の間を行き来できるようにしています。
植物は、もともとこの地域にある自生種を選んで植栽されています。
この白い部分は、
アメリカウナギを紹介するプレートをはめ込むそうです。ミトロフさんによると、この川を地域の環境教育の拠点として活用する計画があるとのこと。
川のまわりは、公園として整備され、広々としたオープンスペースとなっています。ここでイベントやマーケットが開催されたら、とってもにぎやかになりそうです!
はじめはとても実現しないと思われていたデイライト事業。けれど、デイライトしようという人々の気持ちが結集し、わずか10年で実現してしまいました!
人々の強い想いが、川をよみがえらせ、まちをよみがえらせることを、実感したツアーでした。
「私も東京で、事務所前の小川(田無上水)を、デイライトしたいんだ!」というと、ミトロフさんから「サポートするわよ!」と嬉しい言葉をいただきました。うーん、夢ではないかもしれません。
(佐藤留美)
東京の清田です。
毎日、怒涛のニューヨークレポートありがとうございます。
今日はグランドワークUSAにはまっています。
こども向けプログラムの充実していること、特に校庭での活動に興味を持ちました。このところ、ロンドンではなく、ニューヨークから目が離せません。
清田 | 2012年7月21日 23:45