額から流れる大粒の汗。
ランニングシャツに半ズボン。
モーターがうなり、分厚いガラスの器の中でガラガラと砕ける氷。
暑い夏の日に父が作ってくれた夏ミカンのジュース。
分厚い皮をむき、房をばらしたら、薄皮を剥かずにそのままジューサーに放り込む。
ジューサーの回転を助けるため、水を少し足し、スイッチを入れる。
全体が混ざったらタップリと砂糖を入れ、あとは氷を入れて、もうひと回し。
甘くて、酸っぱくて、ちょっと苦い夏ミカンジュースの出来上がり。
ビールのように泡が立ち、そして苦い。
これが大人の味なのかな?
そんな風に思って一気に飲み干した。
ある夏の日、母が八百屋で新しい夏ミカンを買ってきた。
「甘夏っていうの。新しい夏ミカンよ。前のより甘いのよ。」
確かに、甘夏は夏ミカンより甘く、皮も薄く、小ぶりでオレンジ色が強かった。
その後、夏ミカンは八百屋の店先から消え、今では幻のミカンになってしまった。
当夏ミカン生産地でも、夏ミカンの木は甘夏の木に植え替えられ、今では消滅状態らしい。
数年前、葉山に住む知人から夏ミカンを復活させるプロジェクトがあると聞いた。生産地では消滅した夏ミカンだが、庭先に観賞用として植えられていた夏ミカンを食料用として復活させているそうだ。
できることならもう一度、あの夏に飲んだ夏ミカンのジュースが飲んでみたい。