子供の頃、母が作ってくれたおやつ。
小麦粉を水で練ってフライパンで焼く。
こんがりと焦げ目がついたら、砂糖と醤油でつくった甘辛のたれをかける。
包丁で切るとザクザクっと音がした。
素朴で温かい故郷の味。
どんと焼きは、おやつとしてだけではなく、お誕生日会の一品としても焼かれていた。
しかし、やがて駅前に出来た不二家のケーキにとってかわり、忘れ去られた味になった。
ところが、里山民家で働くようになって、どんと焼きと再会した。
武蔵村山ではまだどんと焼きが生きていた。
といっても懐かしい味であることには変わりはないのだが...。
水利の悪い武蔵野台地。
水田が少ないため、小麦づくりが盛んになった。
それゆえに、うどん文化が育ち、どんと焼きも生み出された。
どんと焼き。
五月の風に青い麦が揺れる武蔵野台地の味。