パークレンジャーからのメッセージ。『東京里山物語』。
『東京里山物語』の始まり。
私たちNPObirthは、2006年に野山北・六道山公園と狭山公園の指定管理を始めました。当時から各公園には、公園緑地の安全管理や環境保全をおこない、自然の大切さを伝え、自然を守り育てる人材を育成する、パークレンジャーが配置されています。
指定管理を始めた当初より、毎月パークレンジャーが撮影した多くの写真から、9枚をセレクト。短いストーリーに仕立て、「レンジャーパネルワークス」として、公園のインフォメーションセンターに展示していました。里山の四季、そこで活動するボランティアのたちの姿がいきいきと紹介され、人気があった展示です。
その後、2010年のCOP10(生物多様性条約第10回締約国会議)開催にあたり、それまで4年間続いたストリーを四季の四編に再編し、英訳をつけ、一冊の写真集としてまとめたのが、『東京里山物語』です。
著者の背景。なぜ、『東京里山物語』なのか。
『東京里山物語』の著者でNPObirthの理事、パークレンジャーの蜂須賀公之は、1962年に狭山丘陵で生まれました。幼少期の昭和40年代、高度経済成長期で多摩地域では田んぼが続々と放棄され、都心部のベットタウンとして宅地化が進みます。
エネルギー革命も相まって、便利な世の中になる一方で、そこにあった豊かな自然が恐ろしい速さで無くなっていきました。
小さなころ家族と一緒に歩いた八国山が、明るい薪炭林としての里山の、最後の姿としてありました。
里山が無くなる様子を目の当たりにした少年時代を経て、学生時代に美術大学で芸術表現を学びます。
美術や音楽などで様々な表現活動をする中、バンドの練習で泊まった山奥のコテージで、蜂須賀はある出会いをします。夕食に出てきた色とりどりの名前も知らないたくさんのキノコ。その種類の多さに驚き、次の朝、コテージを出て裏山に行くと、そこに大量のキノコが生えていることに気が付きました。
子どものときから、どんどん消えてしまうと思っていた「自然」が、あふれるほどそこにあったのです。自然への渇望が爆発し、それからの5年間は、キノコのことばかりを考える日々。
「自分が失った里山の風景や、日本人それぞれ思い描く故郷の豊かな自然。それを守るために、いかにして自然の大切さを伝えていくか。今からでも遅くない。そのことを伝える芸術をしなければ」
そんな使命感に駆られた蜂須賀は、NPObirthの立ち上げの一人として環境教育に携わり、一つの作品として生まれたのが、『東京里山物語』です。
『東京里山物語』
『東京里山物語』では、春夏秋冬に分けて、それぞれの風景からメッセージを伝えています。
(以下、一部抜粋)
発行から14年。変わらない、伝えたいメッセージ。
SDGsも提言されていない時から、新しい時代に向けて、パークレンジャーとしてどうやって環境保全や人と自然の関係を作っていくか。多様性をどうとらえて、どう生かしていくかを考え、都立公園の現場で市民の皆さんとの活動を写真やメッセージで伝えた『東京里山物語』。
その『東京里山物語』が発行され、14年が経ちました。近年、世界規模でのSDGsや国の背策として環境教育や多様性の理解を進み、私たちが伝え続けてきたことに、後ろ盾がでてきました。
今、この本を読んで気づかされる、自然の中に本来ある多様性と、そこにある私たちの幸せ。
そのことを自分の目で見て、肌で感じて、感情が動かされたときに、人は自然を守る行動をする。
それこそが、“自然と人間のよりよい関係”ではないでしょうか?
NPO birthのミッション、『私たちが守るべきは自然ではない。自然と人間のよりよい関係である』。
14年経って、社会が変わっても、私たちのミッションや伝えたいことは変わっていません。 そのエビデンスとなる『東京里山物語』の色褪せない写真やメッセージを、今だからこそ見ていただき、一緒に考えてほしいと思っています。
自然が教えてくれるもの。パークレンジャー、蜂須賀の言葉。
人は情感が揺さぶられたとき、何かを考える大きなきっかけになります。例えば、子どもたちが虫を手に持って、痛い、怖い。動物が面白い、可愛い。風景がキレイ、素敵。
それを言葉にして、体験として明確にするのが、僕たちレンジャーの役割です。
「怖かったけど、虫の逞しさに気づけたね」
なんとなく楽しかったではなくて、体験をロジック化することが大切です。
そして、自然が教えてくれる多様性。
例えば、子どもたちに「秋らしい葉っぱを持ってきて」と言ったら、全然違う葉っぱがたくさん集まります。個人の感性・感情で、いろんな色が入っている葉っぱ。真っ赤な葉っぱ。つやつやしている葉っぱ。一番は決められない、どれも秋らしい素敵な葉っぱです。
森は、強い大きな木が集まっていたとしても、同じ病気でほとんど枯れてしまうこともあります。いろんな木が集まっていたから、森は無くならず長生きできる。人間もそうなんじゃないのかな?コロナで人が絶滅しなかったのは、私たち人間が持って生まれた多様性(種内多様性)があったのが、一つの大きな理由ではないでしょうか?
クラスで強い子ばかりではうまくいかなくって、いろんな子がいるから、なりたっている。そのことに気が付いたらクラスの子に優しくなったり、尊敬しあったり。それが環境教育だと思います。多様性は「優しさ」とは違う、私たちが「得をする」ための考え方です。ある時から一番いいもの、強いものだけを求めることに限界が来た。これ以上私たちが幸せ豊かになるためには、「とりこぼしなくすべての人」を大切にすることが重要です。そのことで今まで得られなかったものを得られる。もっと柔軟で、想像力、可能性にあふれた世界へ、今までとは全く違う方向へ行くということだと思います。
環境保全を引っ張っていく人、
インタープリターの役割を担う人、
自然の中で生きているすべての人に、見ていただきたい大切な一冊です。
『東京里山物語』に関するお問い合わせ・購入についてはこちらよりご連絡ください。
photographs by Masayuki Hachisuka , Atsuko Hanzawa text by Mioko Sakata
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