NPO birth

2024.7.13
環境教育・普及啓発

パークレンジャーからのメッセージ。『東京里山物語』。

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私たちNPO birthのミッションは、“自然と人間のよりよい関係”です。 “自然と人間のよりよい関係”とは、具体的にどういう関係で、それを守るために何をすべきなのでしょうか。 そのことを、NPO birthのパークレンジャーが、写真とメッセージで表現した一冊の本を紹介します。

『東京里山物語』の始まり。

私たちNPObirthは、2006年に野山北・六道山公園と狭山公園の指定管理を始めました。当時から各公園には、公園緑地の安全管理や環境保全をおこない、自然の大切さを伝え、自然を守り育てる人材を育成する、パークレンジャーが配置されています。
指定管理を始めた当初より、毎月パークレンジャーが撮影した多くの写真から、9枚をセレクト。短いストーリーに仕立て、「レンジャーパネルワークス」として、公園のインフォメーションセンターに展示していました。里山の四季、そこで活動するボランティアのたちの姿がいきいきと紹介され、人気があった展示です。
その後、2010年のCOP10(生物多様性条約第10回締約国会議)開催にあたり、それまで4年間続いたストリーを四季の四編に再編し、英訳をつけ、一冊の写真集としてまとめたのが、『東京里山物語』です。

2010年発行『東京里山物語』。

著者の背景。なぜ、『東京里山物語』なのか。

『東京里山物語』の著者でNPObirthの理事、パークレンジャーの蜂須賀公之は、1962年に狭山丘陵で生まれました。幼少期の昭和40年代、高度経済成長期で多摩地域では田んぼが続々と放棄され、都心部のベットタウンとして宅地化が進みます。
エネルギー革命も相まって、便利な世の中になる一方で、そこにあった豊かな自然が恐ろしい速さで無くなっていきました。
小さなころ家族と一緒に歩いた八国山が、明るい薪炭林としての里山の、最後の姿としてありました。

里山が無くなる様子を目の当たりにした少年時代を経て、学生時代に美術大学で芸術表現を学びます。
美術や音楽などで様々な表現活動をする中、バンドの練習で泊まった山奥のコテージで、蜂須賀はある出会いをします。夕食に出てきた色とりどりの名前も知らないたくさんのキノコ。その種類の多さに驚き、次の朝、コテージを出て裏山に行くと、そこに大量のキノコが生えていることに気が付きました。
子どものときから、どんどん消えてしまうと思っていた「自然」が、あふれるほどそこにあったのです。自然への渇望が爆発し、それからの5年間は、キノコのことばかりを考える日々。
「自分が失った里山の風景や、日本人それぞれ思い描く故郷の豊かな自然。それを守るために、いかにして自然の大切さを伝えていくか。今からでも遅くない。そのことを伝える芸術をしなければ」
そんな使命感に駆られた蜂須賀は、NPObirthの立ち上げの一人として環境教育に携わり、一つの作品として生まれたのが、『東京里山物語』です。

『東京里山物語』

『東京里山物語』では、春夏秋冬に分けて、それぞれの風景からメッセージを伝えています。
(以下、一部抜粋)


多様性を視覚で感じ取る春。たくさんの木や花、生物、命が次々に湧き出てきます。大昔から日本人は、そんな生き生きとした春、二十四節季「清明」の美しさを知っていました。
美しい自然=豊かな多様性ある風景を見て、「そこで生きていける」と感じ取る力を、人は持っています。人が美しいと思うことには理由があり、そこに幸せを感じる。「いいところ」と「生きていけるところ」は同じです。

生物多様性以降の、人と自然の関係の変化を、宮沢賢治の美しい言葉を借りて表現しています。
大天才宮沢賢治を深く敬愛しながら、きっぱりと新しい時代を生きることを宣言している。自然に負けないための孤独な戦いではなく、尊敬や憧れをもって自然とともに生きる。みんなで自然とつながり、その喜びを感じながら進んでいく。14年経って色あせない、NPObirthのミッション、多様性の時代を生きていく意志が、明快かつ、時にはユーモアたっぷりに描かれます。

水にみぞそば
野辺に野菊
草に子ども
あたりまえのような自然と人の関係、しっくりと一つになってあったかけがえのない関係が、掌中の綿毛のように消えていく。秋の9枚の写真の中に、そんな象徴的な一枚があります。
『東京里山物語』の舞台となった都立野山北・六道山公園は、自然の地形を利用し、縄文以前より人々の営みのあったところです。その人と自然の関係は、高度成長期に一度失われてしまった。田んぼは36万トンのゴミに埋め立てられ、たくさんの生き物たちが消えた。そこを東京都は里山公園として再生し、私たちが指定管理者を任されたのです。「もう一度僕らはそれを抱き寄せる」9枚の写真の最後は、ボランティアの少女が、復活した田んぼで稲わらを抱き上げる姿です。

つい、ステレオタイプにものを見がちな現代、レンジャーの目は、冬だからこそ見えてくる自然の力強い姿を一つ一つ紹介していきます。
草の海の中に川があったこと
木の枝は下向きにも伸びること
昔の人のくらし、しあわせが、今の人の中へ帰って来れること…
日本のアイデンティティを大切しながら、未来の風景の中で私たちはどう生き、どんな幸せや豊かさをつくっていくのか。それを考えるための行動変化を持たせるのが、NPObirthのパークレンジャーの役割であり、そのために何を素材として取り上げ、どんな視点、メッセージを持つべきか、蜂須賀は写真と言葉で示していきます。

発行から14年。変わらない、伝えたいメッセージ。

SDGsも提言されていない時から、新しい時代に向けて、パークレンジャーとしてどうやって環境保全や人と自然の関係を作っていくか。多様性をどうとらえて、どう生かしていくかを考え、都立公園の現場で市民の皆さんとの活動を写真やメッセージで伝えた『東京里山物語』。
その『東京里山物語』が発行され、14年が経ちました。近年、世界規模でのSDGsや国の背策として環境教育や多様性の理解を進み、私たちが伝え続けてきたことに、後ろ盾がでてきました。
今、この本を読んで気づかされる、自然の中に本来ある多様性と、そこにある私たちの幸せ。
そのことを自分の目で見て、肌で感じて、感情が動かされたときに、人は自然を守る行動をする。
それこそが、“自然と人間のよりよい関係”ではないでしょうか?

NPO birthのミッション、『私たちが守るべきは自然ではない。自然と人間のよりよい関係である』。

14年経って、社会が変わっても、私たちのミッションや伝えたいことは変わっていません。 そのエビデンスとなる『東京里山物語』の色褪せない写真やメッセージを、今だからこそ見ていただき、一緒に考えてほしいと思っています。

自然が教えてくれるもの。パークレンジャー、蜂須賀の言葉。

『東京里山物語』著書・NPObirth理事 蜂須賀公之。

人は情感が揺さぶられたとき、何かを考える大きなきっかけになります。例えば、子どもたちが虫を手に持って、痛い、怖い。動物が面白い、可愛い。風景がキレイ、素敵。
それを言葉にして、体験として明確にするのが、僕たちレンジャーの役割です。
「怖かったけど、虫の逞しさに気づけたね」
なんとなく楽しかったではなくて、体験をロジック化することが大切です。

そして、自然が教えてくれる多様性。
例えば、子どもたちに「秋らしい葉っぱを持ってきて」と言ったら、全然違う葉っぱがたくさん集まります。個人の感性・感情で、いろんな色が入っている葉っぱ。真っ赤な葉っぱ。つやつやしている葉っぱ。一番は決められない、どれも秋らしい素敵な葉っぱです。
森は、強い大きな木が集まっていたとしても、同じ病気でほとんど枯れてしまうこともあります。いろんな木が集まっていたから、森は無くならず長生きできる。人間もそうなんじゃないのかな?コロナで人が絶滅しなかったのは、私たち人間が持って生まれた多様性(種内多様性)があったのが、一つの大きな理由ではないでしょうか?
クラスで強い子ばかりではうまくいかなくって、いろんな子がいるから、なりたっている。そのことに気が付いたらクラスの子に優しくなったり、尊敬しあったり。それが環境教育だと思います。多様性は「優しさ」とは違う、私たちが「得をする」ための考え方です。ある時から一番いいもの、強いものだけを求めることに限界が来た。これ以上私たちが幸せ豊かになるためには、「とりこぼしなくすべての人」を大切にすることが重要です。そのことで今まで得られなかったものを得られる。もっと柔軟で、想像力、可能性にあふれた世界へ、今までとは全く違う方向へ行くということだと思います。

環境保全を引っ張っていく人、
インタープリターの役割を担う人、
自然の中で生きているすべての人に、見ていただきたい大切な一冊です。

小宮公園(東京都八王子市)で行うインタープリテーション。

『東京里山物語』に関するお問い合わせ・購入についてはこちらよりご連絡ください。

photographs by Masayuki Hachisuka , Atsuko Hanzawa text by Mioko Sakata

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