東京都絶滅種「ヤナギスブタ」の復活!|湿地再生プロジェクト
NPO birthでは、失われつつある湿地の環境や生き物を再生するため「湿地再生プロジェクト」を行っています。
指定管理者として管理運営している複数の公園において、地道にプロジェクトを推進してきました。
その成果として、令和5年8月、東京都では絶滅したと思われていた植物「ヤナギスブタ」が復活!
実に26年ぶりの確認となりました。
26年ぶりに確認された「ヤナギスブタ」
ヤナギスブタは、水田などの浅い水域に生息する一年生の水生植物。
耕作放棄や農薬の使用により全国的にも減少しており、
東京都では1990年代の町田市の記録を最後に、姿を消していました。
今回、本種を確認した場所は、60年ほど前まで水田として利用されていた場所です。
当時は、ヤナギスブタが生育しており、その種子が土中に保存され、
私たちが実施した掘削によって発芽したと考えられます。
実施年:2006年〜現在
場所:都立野山北・六道山公園
失われていく自然を守りたい!
今回、生育を確認した場所は、東京都立野山北・六道山公園の谷戸にあります。
当地は、希少な両生類の産卵水域として利用されていましたが、度重なる大雨の影響で大量の土砂が流れ込み、水域が消失、植物が繁茂する状況となっていました。そのため、両生類の産卵場所の確保や水生植物の復活に向けて湿地再生計画を作成。令和5年1月には湿地再生の取組として、土砂の掘削を行いました。
水生植物相の復活。そして、ヤナギスブタを確認!
掘削作業を行って約半年後、変化を確認するため湿地を訪れると、複数種の水生植物が発芽していました。大きく生長したコナギをかき分け調査をしていると、他とは違う、細い線形の葉をたなびかせる水草が目に留まりました。泥が舞わないよう静かに近づき確かめると、ヤナギスブタの特徴とよく似ています。しかし、これまで狭山丘陵でヤナギスブタが確認されたことはなく、より詳細な調査が必要となりました。
植物体の一部を根元から採集し、専門家の協力も得て同定を行い、ヤナギスブタであることが確定しました。
ヤナギスブタの他にも、狭山丘陵では初記録のミズオオバコ(東京都RDB2023:絶滅危惧IA類(CR))を発見することができました。さらに、狭山丘陵では確認記録が少ないサワトウガラシやフラスコモ属の一種が確認されています。
種子回収の成功。継続的な保全への一歩をふみだす。
ヤナギスブタやミズオオバコは1年草のため、冬には枯れて消えてしまいます。そのため、これらを保全するには、種子の回収が重要になります。植物体の一部を持ち帰り、日光の当たる屋外や室内の水槽にて域外保全を開始。水温の上昇や繁茂するコケと格闘しながらも、何とか開花・結実を確認することができ、種子の回収に成功しました。
今後は現地を安定した生育地として維持すると共に、 回収した種子から増殖を行い、ヤナギスブタなど多様な水草があふれる湿地環境の保全に努めます。
生きものあふれる水辺を目指す「湿地再生プロジェクト」
今回の取組は、私たちが3つの都立公園グループ(狭山丘陵、武蔵野、多摩部)で展開している「湿地再生プロジェクト」のひとつであり、都内の湿地再生および希少種保全に大きく貢献するものです。また、水生植物は、それ自体に絶滅危惧種が多く貴重なものですが、両生類や昆虫等に棲み家や産卵場所を提供したり、池の水質を維持するなど、生物多様性の回復には欠かせません。
今後も、失われつつある湿地環境を再生し、多様な生物があふれる環境の保全に努めます。
担当者コメント
ヤナギスブタを最初に目にしたときには、「まさか」と思い鼓動が早くなるのを感じました。
泥が舞わないよう静かに近づき、葉に触れ、わずかに鋸歯があるのを確認しました。ヤナギスブタと確定できたときはとても嬉しかったです。
生きものの保全は、泥を掘ったり草を刈ったりと地味な作業の繰り返しです。しかし、この時の感動が、今後の活動を支える大きなエネルギーになります。
湿地再生は、タイムカプセルを掘り起こす作業です。
たとえ絶滅してしまった植物であっても、埋土種子が発芽して復活する可能性があります。しかし、植物の種子には寿命があります。のんびりしていては復活することなく消滅してしまう恐れがあります。
18年間の指定管理の中で代々の担当者がみな希少植物の復活を目指し、乾いた湿地を掘り続けてきました。
私もこの意志を受け継ぎ、各地でプロジェクトを推進していきます。(山下洋平)
謝辞
今回の調査にあたり、多くの方々のご支援を頂いた。湿地の整備については東京都建設局西部公園緑地事務所および狭山丘陵パートナーズの皆様には、快いご理解をいただいた。特に、長池公園の内野秀重氏、東京農工大学の片桐浩司氏にはヤナギスブタの同定および、貴重な情報をご提供およびご助言を頂いた。また、日ごろから狭山丘陵で活動されている市民団体やボランティアの皆様には、草刈りや調査などにご協力いただいている。皆様のご支援によるものとあらためて感謝申し上げます。
■このプロジェクトに関するお問合せ
狭山丘陵パートナーズ 野山北・六道山公園管理所
〒208‐0032 東京都武蔵村山市三ツ木4丁目2番
電話:042-531-2325
担当 山下・荒川
▼ 狭山丘陵パートナーズ 公式発表はこちら
プロジェクト概要を山下が説明している動画です。ぜひご覧ください。
関連記事を見る
-
絶滅危惧種「トウキョウサンショウウオ」の復活
数多くの谷戸が入り組む丘陵地の公園で、絶滅危惧種である「トウキョウサンショウウオ」が激減。調査、産卵環境の整備、飼育による保護・増殖を実施したところ、卵のう数がV字回復しました。
- #在来種の保護・増殖
- #外来種防除
- #生態系保全プランの作成
- #生物多様性管理
- #生物調査
- #絶滅危惧種
-
狭山丘陵における広域連携プロジェクト
地域の行政、市民団体、施設などと連携して、行政区をまたぐ広域の自然環境保全や地域PRの活性化等を推進。協議会の立ち上げ、新規連携イベントの企画運営をコーディネーターが中心となって行い、大きな成果をあげています。
- #コーディネーター
- #パークマネジメント
- #パークレンジャー
- #ボランティアコーディネーション
- #地域活性化
- #地域連携
- #市民協働
- #指定管理
- #環境教育プログラム
-
加賀電子が本社ビル屋上にビオトープを創出!
JR秋葉原駅近くの加賀電子株式会社 本社ビル屋上に、2023年5月にビオトープができました。企業が取り組む生物多様性の普及啓発のためのプロジェクトを、NPO birthが監修しています。
- #SDG s
- #アーバンネーチャー
- #企業緑地
- #屋上ビオトープ
- #生物多様性管理